インネの日記・うたかた

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夢売るふたり 女の視線

西川美和監督映画「夢売るふたり」を見てしまった。

「ゆれる」で衝撃を受けて以来、西川美和さんの映画が見たく、内容を知らずに見てしまったんですね。

今度は呪われるように、どっぷり浸かってしまいました。これは、私だ。

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あらすじはこんな感じ。

東京の片隅で小料理店を営んでいた夫婦は、火事ですべてを失ってしまう。
夢を諦めきれないふたりは金が必要。再出発のため、彼らが始めたのは妻が計画し、夫が女を騙す結婚詐欺! 
しかし嘘の繰り返しはやがて、女たちとの間に、夫婦の間に、さざ波を立て始める……

もっと長い筋はwikiを 夢売るふたり - Wikipedia

 

女性は共感力が高いと言われるので、この映画を見れば、誰もが誰かの感情に共感すると思います。西川美和さんは、人間の感情のうねりや細やかな部分を表現するのがすごく上手なので、時に「あぁ、あるある」と思い、時にぞくっとさせられる。

 

しかしですね、この映画に出てくる里子はまるっきり私なんです。西川美和さんに直接会って、言いたくなりました。こういう人を知っているんですか?って。

物語を紡ぐ人というのは、ヒントはあっても、登場人物を知っているわけではないと理解しているので、どうやってこんな夫婦を作り上げることができるんだろうかと思う。やっぱりすごいクリエーターだ。

本当に西川美和さんに私のことを語りたくなったけれど、見知らぬ人に人生語られても迷惑極まりないことはわかっているので、ここに書きます。

 

(以下、映画のネタバレありです。)

 

私も里子のように、ごく普通の結婚生活を送っていましたが、ある時突然、夫がすべてを失い、一千万以上の借金までできたんです。びっくりでしょ。これ、映画の筋じゃなくて本当の話です。

私は子供の頃から堅実派で、小学1年くらいで親に銀行口座を作ってもらい、お年玉を溜め込んでは通帳を見て喜ぶタイプ。ローンでさえ一度も組んだことがありませんでした。それが、全財産を失って借金ですからね。意味がわかりません。

 

夫はあまりのショックで阿部サダヲ演じる貫也のように、毎日呑んだくれてほとんど寝てました。前の仕事すればって言っても、今更頭下げて仕事もらうなんてできないって言うんです。男の人って家族よりプライドが大事なんですね。

事情があり、私は仕事ができないのですが、10歳以上年下の学生たちの中で、いろんなアルバイトをしていました。里子のように、気持ちを隠して。夫は阿部サダヲと同じことを言いました。「お前はそんなことでもできていいよな。」と。

1年こんなことを続けて、全く新しい事業を立ち上げることにしました。始めはもちろん厳しい時期が続きましたが、これが意外に軌道に乗って、しかも偶然筋がよかったらしい私が、事業の主になる部分を握ることになったんです。

法は全く侵していませんが、結婚詐欺を始める市澤夫婦と一緒です。松たか子が先導しているように見えて、本当は共依存関係にあるんです。市澤夫婦の夢は自分たちのお店でしたが、私たちの場合は子供です。他の人を巻き込む分もっと悪い。

 

表向きを取り繕っているのに、中はぐずぐずに壊れていく様子が、いちいち同じでした。テレビを見て「ひどいねー。」と言い合うシーン、あんな日常を重ねて夫婦であろうとしているんです。「お金が足りない」という私に夫は阿部サダヲと同じことを言う。

古ぼけた居酒屋で「お前の足りないは、お金じゃなくて『腹いせ』が足りないんだ」と阿部サダヲが言って、松たか子が手に持ったコップの水をかけようとしてやめる。そしてなんでもなかったように仕事を始める。このシーンはすごくよくできてて秀逸なんだけど、これを、本当に何度も何度も私はやってるんです。感情が噴き出しかけて、なんでもなかったように笑って済ます。

そして、子供が欲しいという感情の描き方もすごかった。私も切実に子供が欲しいのですが、レスなんです。生理のたびに訪れる、ぞっとするような虚無感は、女にしかわからない。松たか子さんの演技はすごかったし、あれだけで語ろうとした西川美和さんもすごい思い切りだと思う。

 

とにかくもう、すべてのシーンが、ひりひりとした痛みを伴いました。

多くの方が「女は怖い」という感想を書いていましたが、怖いなんかじゃ片ずけられない、どろどろとした感情を抱えて、それでも生きているんです。

 

詐欺のターゲットである、重量挙げ選手ひとみに対して、里子が「あれは気の毒。私が男ならあんな女は無理。」と言うんだけど、貫也は「お前に見えている世界の方が気の毒だ」と言います。

里子はひとみの真っ当な感覚や、汚れない心を本当に羨ましかったんだと思う。それをわざと、汚い言葉でなんとかして汚したかったんだと思う。

 

もう、シーンを上げればきりがないんですが、ひどいものを見せられましたね。自分の感情をこれでもかってくらい映画の中に見ました。私はがっつり里子ですが、多くの女性が、この映画に出てくる女性たちの感情に、自分を重ねて見るのだと思います。すごい映画です。

 

ラストについては、西川美和さんのインタビューで本当はふたりでひっそりと一緒に亡くなるという最後だったそうですが、震災を経て、「それでも生きていく」というふうに変えたそうです。

よかった。「それでも生きよう」と言われて、よかった。今でも、何もかも投げ出したくなる気持ちになることがよくあるのです。

 

里子が「自分の道で人生を作らないと人生は卑怯になる。」と言います。

私は、仕事を持った今でも、夫と子供の人生に依存したまま。貫也の逮捕で、里子はひとりで歩き始めたけれど、私には映画のようなきっかけがないから、自分で人生を作る決意をするのは、自分でしかない。今もぐずぐずとしています。

 

主演の松たか子さんの演技、すごくよかった。私は松たか子さんに似ていると、ロングバケーションの清楚な涼子ちゃんをした時から今まで言われているので、松たか子さんの表情を見るのは本当に恐ろしかったです。あんな顔をしているんだと。(もちろん、松たか子さんが女優でずっと綺麗なのはわかっています。)なんか、いろいろ皮肉だな。ロンバケの時はあんなに清楚だったのに、こんなところまで来てしまった。すべてを勝手に重ねてしまいます。実際の松さんは赤ちゃんができて、幸せそうだし。

 

本当に自分の人生を生きなければ。卑怯なままではいけないと思っています。

 

西川美和さん、ほんとすごいな。いつかお会いしたい。

「ゆれる」も、もう一回見ようと思います。これは、完全にヌーベルヴァーグ映画っぽい。素人意見ですが。

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